春さらば(5)2009/04/10

やっぱり春が一番!
 万葉集の面白さは和歌そのものがもつ古代の人々の奔放さや家持に代表される繊細優美な作風だけではありません。文字としての日本語の歴史を知る手掛りでもあるのです。例えば「春さらば」は「波流佐良婆」や「春去者」と記録されています。「秋さらば」も「安伎左良婆」「安伎佐良婆」「秋去者」「秋佐良婆」と4種類の書き方がなされています。「夕さらば」の場合は「暮去者」と「夕去者」に分かれています。
 これらの差が物語るのは、当時の知識人が大和言葉と漢語の知識とを照合して同じ意味をもつものを探し出そうとした苦闘の跡です。上手く見つかれば大和言葉をその漢字の訓として使い、季節の「はる」は「春」の訓に、「あき」は「秋」の訓になりました。「ゆう」の場合は「夕」の訓にも「暮」の訓にもなっています。その差は時に記録した人の知識の差であり、時にはそれぞれの漢字に対していだくイメージの差だったと言えます。
 そして見つからなければ漢字の音を一音ずつ日本語の音にあてはめたのです。「はる」が「波流」だったり、「あき」が「安伎」だったり、「さらば」に3文字の漢字が使われたり時に「去者」と漢文風に記録されたのです。万葉集には先人たちのこうした格闘や作業過程が記録されていると見ることもできるのです。是非皆さんなりの新しい楽しみ方を見つけて井上由美子さんを驚かせてあげましょう。(完)

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