とてつもない(2)2009/03/15

 文献に記録された「とてつ」の歴史は室町時代初めまで遡ることができる。この時代に出版された漢字片仮名混じりの法語「夢中問答集」や、同じ頃に成立したやはり和漢混交文の軍記物語「太平記」の中に「途轍」と書き記されて登場したのが最初だろう。漢字「途」は道や方法の意、「轍」は車が通った後にできる輪の跡つまり「わだち」のことである。
 上掲の法語は甲斐の恵林寺や京の天竜寺・臨川寺などの創建に関わったことで知られる禅僧・夢窓疎石が足利尊氏の弟・直義の質問に答えた際の記録である。一方、「太平記」は後醍醐天皇から南北朝動乱に至る変革期の歴史過程を南朝側の立場から描いた作品として知られるものだが、両者とも「途轍」を「筋道」あるいは「道理」を表す言葉として使っている。時代は同じ室町期であっても「さもし」に見るような庶民的意味合いは感じられず、むしろ武家社会の性格の一端でもある「几帳面さ」に通じる意味合いの言葉であったことに注目したい。