まつり縫い2009/03/27

 中学校の技術・家庭科で教える裁縫の中に「まつり縫い」と呼ばれる技法がある。この技法が生徒に適切に習得されているか3千人の中学3年生を対象に実技テストを行って調べたところ合格点に達したのは半数弱(46%)だった、と文部科学省国立教育政策研究所が発表した。男女平等・男女共同参画社会の実現を目指して高度経済成長期に設けられた技術・家庭科だが、それ以上に日本の社会から裁縫という技術そのものが廃れてしまったのではないかと危惧する。
 ところで「まつり」は名詞であるため一般には、スカートの裾を「まつる」とか「まつりつける」といった動詞形の使用例を多く目にする。「まつる」には「巻きつく」や「絡みつく」の意味があり、元は「二疋の犬がまとわりついて離れない」というときの「まとわる」や「まとわりつく」と同じ言葉だったと考えられる。恐らく「相談をまとめる」や「話がまとまる」の「まとめる」や「まとまる」とも同根だろうが、その詮索は別の機会に譲り、ここでは「まつり縫い」と「くけ縫い」の差だけを紹介する。
 「まつり縫い」は一名「まつりぐけ」とも呼ばれるように、なるべく縫い目が表から見えないよう工夫した「くけ縫い」技法の一種である。図解の助けを借りることなく文章だけで説明するのは容易ではないが、「くけ縫い」と「まつり縫い」の違いをごく単純化して言うなら、前者が単に布地の端を折り曲げて針と糸で元の布地に縫い合わせるだけの簡易な技法であるのに対し、後者は折って二重にした布地の端を表地に縫いつける際に縫い糸が文字通り表地の織り糸と絡みつくように必要最小限の量の織り糸だけを針で掬って糸を通し、次に裏側の布地の折り目から針を潜らせ少し先まで糸を通してまた表地側に針を出すという作業を繰り返してゆく。
 こうすれば表側に顔を出す縫い糸の痕跡はごくわずかとなり、縫い目が目立つことはない。前者は浴衣など廉価な着物の脇や衽(おくみ)の縫い代の始末に多用され、後者は洋服の裏地の縫いつけなどより高価な衣類の仕立てに利用される。なお手間はかかるが、さらに高級感を演出できる「奥まつり(縫い)」と呼ばれる技法もある。伝統的な裁縫技法の奥はなかなか深いと言えよう。