◎季節の言葉 寒紅梅2010/01/17

 寒中に咲く紅梅は寒紅梅と呼ばれ、澄み渡った青空に八重の花びらをパラボラアンテナのように向けている。空の青さは手が切れそうなほどに冷たい。眺めていると寒気が目を射すように襲ってくる。


 今年のセンター試験も今日で終る。各地の神社にはきっと神頼みの絵馬がたくさん奉納されたことだろう。子どもの数が大幅に減ったというのに大学の数はほとんど変らず、学部や学科の増設は相変わらず賑やかに繰り返されている。親の教育負担が軽減される様子もない。進学塾も補習塾も大学の予備校も依然として賑わっている。子ども達も忙しそうだ。

 ところがこれとは裏腹に、大学へ入る学生の学力や知識や教養は定年後世代から見る限り明らかに下がっている。きっと何か別の、老人世代には窺い知ることのできないものが彼等の頭の中を占領しているのだろう。不可思議な世の中だ。

  寒紅梅馥郁として招魂社 虚子

○白梅日記132010/01/17

 日記を続けるというのはなかなか難しいものらしい。昨日は老主人が花見の予定まで立ててくれたのに、その日を待たずに日記が終るかも知れない。大抵昼過ぎに見えるカメラマンが今日はいつもより遅れて日が傾き始める頃に現れた。そして撮影は大寒までだろう、と言い残して帰った。


 理由は教えてくれなかったが、どうも新年から目出度くない出来事が相次いでいるようだ。番外で顔を見せた寒紅梅の爺さんは昔は丁髷(ちょんまげ)姿の侍とも付き合っていたと噂される長寿の双幹梅だし、老主人が大好きな水戸の黄門様の本物を見たと自慢する臥龍梅さえあるというのに、人間は百年も経たないうちにほとんどが消えてしまう。


 今朝オギャーと生まれた赤ん坊でも女の子で86年、男の子なら80年は難しいと、老主人が「簡易生命表」と記された紙切れを眺めながら呟いていた。脚が地面に潜り込まず、あちこち動き回れるのは羨ましいとも思ったが、ただ寿命をそこら中に撒き散らしているだけの至極せっかちな生き物のようだ。

  寒の梅蒼空に浮く二三輪 滝春一