◎檸檬という漢字2010/01/14

 先日紹介した「リモネ」のルビは、鴎外が翻訳に使用したドイツ語版の訳本に基づく Limone を仮名表記したものである。足かけ5年に及ぶドイツ留学を経験した律儀な軍医らしいルビの振り方とも言えるが、当時はまだ今のように英語の lemon (レモン)が一般化していなかったことの証拠でもあろう。

 だが、さすがは漢籍に明るい鴎外である。これに檸檬なる漢字表記を宛てた。この語は漢音ではニャウボウまたはダウボウだが、日本では広くネイモウが使われる。中国音では地名の寧波(ニンポウ)などと同様、ニンモンとなる。

 中国の古い字書である韻書によれば、檸は果樹の名で「木の皮は酒に入れて浸せば風を治す」(廣韻)、「木の名。皮は薬と為すべし」(集韻)と説明されている。一方、檬は「槐に似て華は黄」(廣韻)、「木の名、黄槐也」(集韻)と説明され、「広漢和辞典」はこれをマンゴーとしている。

 檸は単独でもレモンの意として通るようだが、檸と檬を組み合わせ lemon なる外来の果物を漢字で示したところに中国先人の工夫が見られる。漢字の多くは表意文字としてその意味を示すために使われるが、時には他国の言葉を中国に移すための発音記号としても利用されるのである。


 年明け1月の、レモンイエローと呼ばれる色に変りつつある時期の実を撮した。なお鴎外の「鴎」は正字では「區+鳥」であることをお断りしておく。

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